大学院を選ぶ上で
公共政策大学院は、創設125周年を数年に迎えた学校もあるbusiness schoolやlaw schoolと比べると、プロフェッショナルスクールとしてはまだ若輩です。狭義の意味での「公共政策大学院(「公共政策」を教える大学院)」自体はまだ半世紀も経過していません。政策課題自体も、昔から変わらないものもあれば、この半世紀の間に随分変質・変化しているものもあります。元来「パブリックセクター」自体が幅広いステークホルダーを相手にする商売であり、それ故、MPPやMPAは幅広い層が学ぶプログラムという性格が色濃く出ています。元々パブリックセクターで働いている人、政府と企業の間の関係に関心がある人、政策研究に関心がある人、ボランティアやNGOで働いていた人、パブリックセクターへのジョブチェンジを狙う人等、国籍・バックグラウンド・関心領域も多岐にわたっており、そのニーズも多様です。従って、ある程度スキルセットの仕様書があるようなbusiness schoolやlaw schoolと比較して、各プログラムの評価にそれほど高い信頼性を置くことは難しいのではないでしょうか。
大学院の個性・特色を理解する上で、各ホームページを可能な限り目をとおしてください。その際に、各プログラムの歴史にも注目してみてください。州立大学の公共政策大学院には、最も古く、そして発足当時からのthe Institute of Public Administration/Government としてのカラーを色濃く反映した MPAプログラムを母体としているもの、大恐慌やニューディール政策の時期に発足し、Harvard/Princeton のように大学の研究教育活動に学際性を与え、米国あるいは国際社会の(公共分野における)指導者育成を目的としたもの、ないしはHarvardやPrincetonと同様、公共分野における指導者育成を趣旨として設立されたものの、関連領域となる社会科学関連の教育研究プログラムを後で拡充したSyracuse のようなところもあります。
さらに、1960年代以降に開設されたUC BerkeleyのGSPPや、Indiana University のSchool of Public and Environmental Affairsは、その当時社会科学分野の学者の関心事であった「社会科学の知見を応用し、如何に政策立案と実行に結びつけるか」、あるいはその当時において「重要な政策課題に取り組む上で必要なスキル・能力は何か」という点で、それぞれプログラムの設計がなされ、独自色を持っているところもあります。
この他、国際関係分野においても、Georgetown 大学のthe School of Foreign Serviceように1919年に国際関係におけるリーダー育成を目的として設立されたものや、弁護士を中心として、国際関係に特化した大学院として、国際法と外交に軸足を置いたthe Fletcher School 、第2次世界大戦終結の前後に、戦後の世界秩序構築に向けた実践的教育を志向して設立されたJohns Hopkins SAIS/Columbia SIPAと、古き良き外交官の素養をどこかしら引き継ぐプログラム、LLMやJDではなにせよ国際法を統合したプログラム、そして急速に拡大した米国の影響力を象徴するかのように、フルコース、そして合理性の固まりのようなマンモススクールであるSAIS/SIPAとそれぞれに特徴があります。
どの大学も現代社会が抱える課題に対応しうる研究あるいは人材の育成を念頭において、カリキュラムや科目の拡充などに取り組んでいます。複雑化・高度化していった政策課題に対応すべく、ミクロ経済学や定量分析のツールを取り入れるだけでなく、学際性を意識し、他大学院との単位交換(あるいはジョイント/デュアル・ディグリー)制度の導入などは比較的多く見かけます。またミクロ経済学や定量分析についてはある程度「教えるべき内容・レベル」の標準化(規格化?)が進んでおり、一見するとどこでも同じものが学べるように見えるところもあります。
他方で、如何に回転ドアや移籍が多く見られるとは言え、教授の陣容が大幅に入れ変わるということはなく、古参の教授を中心にして昔の名残りみたいなものが残っています。それぞれの大学の歴史や伝統は、大学の差別化を図る上で重要な資産です。どの大学(院)も、標準化と独自性の間でなんとかバランスを取っていこうとしているのです。もちろん受験する側としては複数の大学院を併願することになるのですが、MPP/MPAあるいは、それ以外の類似のプログラムについては、こうした大学院の取組みと歴史(特色)を理解した上で出願戦略を練っていくと、statement of purposeも説得力のあるものになると思います。
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